ネロリの島おこし

 本日17時から中国放送テレビ「RCCプロジェクト Eタウン」にて、広島県竹原市沖の瀬戸内海に浮かぶ大崎上島における島おこしプロジェクトが特集されます。JAやフェリー会社、企画会社などが仕掛け役となり、島民や行政を巻き込みながら、レモンの葉やネーブルのつぼみを使ったお茶の開発・販売、農園体験などに取り組んでおられます。レモンやネーブルなどの柑橘の香りのことを「ネロリ」というそうです。先週12日に私もゲストコメンテーターとして取材に同行し、関係者にインタビューしたり、感想を述べたりしました。
 番組ではキャスターやデレクターの方がうまく編集、演出してくださっていると思いますが、以下、取材を通じて私が感じたことを記します。番組視聴と併せてお読みいただければ幸いです。まちづくりの観点からみて、大崎上島における取組みのポイントは次の4点にあると感じました。
 第一は、「ないものねだり」でなく「あるもの探し」です。行政や外部からの(特にハード建設への)投資を求めるのでなく、島にある魅力を探し出し(気づき)、それを活用している点です。すなわち、「地域資源の活用」を実践しているということです。しかも、これまで捨ててきたネーブルのつぼみ、レモンの葉に着目し、活用してきた点が秀逸ですね。なお、それらに着目したのは島外の人であった、ということも示唆的です。地域資源を活かす、しかもそこにしかないものを活かすことは、必然的に活動のオリジナリティを高めます。
 第二は、「まちづくりの台風理論」を実践している点です。最初は熱帯低気圧だった台風がうねりをおこし、まわりを巻き込みながら、次第に大きくなっていく。まちづくりも、最初は小さな取組みであっても、持続的な発信と働きかけによって、周囲の人々や組織の賛同と共感を得て、活動の環を広げていく。そんな様子がみてとれました。その際、島民の皆さんの参加を得るため、「実際にやってみせる」「効果を実感してもらう」「楽しんでもらう」といった仕掛け側の工夫がみてとれました。
 第三は、観光客や交流客というより「応援客」の参画を得ている点です。商品やサービス、あるいは空間を「消費」する観光客(一見さんを含む)、継続的に行き来し、より親密な人間関係も構築する交流客というよりも、参画してもらうことでその地域の維持・発展、産業振興にもつながる、応援客ともいうべき客を巻き込もうとしている点です。人口減少・高齢化の進む島々は地域コミュニティの維持、産業振興等の面でさまざまな問題に直面しています。東日本大震災ではこうした問題が突然かつ急激に発生しましたが、瀬戸内の島々などは人口減少・高齢化の進展に伴い、これらが徐々に顕在化しています。震災復興ボランティアツアーが人気を得たように、人口減少・高齢化地域再生ボランティアツアーなるものが今後、企画、商品化されてもいいかもしれませんね。
 第四は、持続的な循環の仕組みづくりに挑戦しているという点です。まちづくりというと、イベントやボランティアといったイメージが強く、その結果、経済的にも精神的にも限界が出てきて、活動が単発で終わるケースがしばしばみられます。まちづくりは「終わりのない持続的な取組み」ですから、人と金と情報が循環する仕組みをつくることが大事です。お茶という商品や農園体験というサービスを通じてお金を循環させ、人が生業(もしくはその一部として)参画し、行き交う情報が人々をさらに結びつけると同時に、活動をブラッシュアップさせる。そんな好循環を生み出そうというにおい(香り)が、ネロリの島おこしには感じられます。徳島県の「葉っぱビジネス」も有名ですが、高齢者の作業として適当な葉っぱ集めに対して、瀬戸内の「ネロリビジネス」は若者や女性が参画できるようになり、定住にもつながるという、柑橘栽培が卓越する瀬戸内の新しい振興モデルになればいいな、と思います。
 第一と第二の点はまちづくりの基本の再確認といえます。それに対して、第三と第四の点は大崎上島での取組みに感じられる可能性といえます。番組中でこれらがうまく表現できたかどうかわかりませんが、以上が私がネロリの島おこし取材に同行して感じたことです。みなさんのご感想、ご意見をお聞かせください。
 最後に、こうした取材機会を与えてくださったT大学のK先生(歌って踊れる大学教授)、RCCのIキャスターおよびNディレクターに感謝いたします。