相互作用の舞台演出(3)

今日も昨日の続きです。

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 「現実の前にひれ伏」しながら「新しい力を引き出す」ことは簡単なことではない。しかし,その方法として有効だと考えられるのが,想いや能力を持った人が集まる場をつくること,すなわち相互作用の舞台をつくることである。そうした場をつくることによって,一人ひとりではうまくいかなくても,情報の交換・共有や信頼関係の構築などの相互作用を通じて,予期せぬ運動が生まれてくるわけで,その実例が第2章から第8章までの内容であると言える。この「予期せぬ運動」については,松波は次のようにも語っている。
 松波:この予期せぬ運動はかなり必然性があって生まれる。それは私たちにとっての必然性ではなく,参加者にとっての必然性である。それでもって,みんなそれなりのやりがいも持てたし,一歩ずつでも幸せになったわけだ。
 すなわち,相互作用の舞台をつくることは「参加者にとっての必然性」が活かされる場をつくることであり,それによって全体の利益だけでなく,そこに集う個々の利益を高めることにつながることになる。このような場のつくり方は,行政が委員を指名し,シナリオを描き,それに沿った形式的な議論を進める審議会や委員会,時にはパネルディスカッションとは全く正反対の方法であることは言うまでもない。また,ここで確認しておかなければいけないのは,必然性を持った参加者−想いや能力を持った人−についてである。複雑系理論の中で語られる「創発」は,しばしば知性の全くない粘菌やアリの行動を例に「個」と「相互作用」,「自己組織化」について説明されるが,まちづくりにおける「個」−ここでいう「参加者」−は決して粘菌やアリと同レベルの存在でなく,生物学者が粘菌やアリを扱う態度とは異なり,行政職員やコンサルタント,研究者,新聞記者などのいわゆる専門家は,参加者の想いや能力を尊敬しながら,それらを引き出す,あるいは引き立てるといった感覚で参加者と向き合う態度が要求されることになる。

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