アニメーション・今年のまとめ5

昨日の続きです。今日はちょっと長文です。

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(2) 2006年度の取組み
 2006年度は,将来に向けた事業基盤を確立することをめざし,次年度以降の自立的展開が比較的容易であるとともに,他の事業に影響を与えたり,新たな事業を誘発する孵卵器となったりするような事業のテストマーケティングと基盤整備を実施している。具体的に次の3点を目標としている。第一は組織的な基盤を確立することである。様々なメディアや場を活用して,広島の市民や事業者等がアニメーションに対する関心を高めるとともに,「ポール・イマージュ・広島」が実施する各事業の実行体制を強化することにより,アニメーションに関わる諸活動が次々と引き起こされるための組織を確立しようとしている。第二は場の基盤を確立することである。中・長期的な実現をめざす事業の具体化に向け,テストマーケティングやプロモーションを通じて各事業の成立可能性を検証するとともに,その具体化に向けた機運を醸成することにより,アニメーションに関わる情報発信や経済取引,集客交流のビジネスが次々と生み出されるための場を提供しようとしている。第三は人的な基盤を確立することである。各事業を実効化するために必要と考えられる「プロデューサー」や「目利き」等の人材を育成するための仕組みを構築し,経済取引や集客交流のビジネスを実効化させる人材を育成および確保しようとしている。
 これらを達成するため,具体的に次の3事業を実施している。第一はインターネットを介した情報発信事業である。具体的に,「アニメーションのまち・広島」を応援する個人や団体,企業等によるコミュニケーション型ウェブサイト「アニメーションシティ広島 」を構築しようとしている。利用者は年会費を払ってこのウェブサイトのバーチャルな市民になると,ウェブサイト内に自分のページを持ったり,他の会員と情報交換したり,日記を公開したりすることができる。また,このウェブサイトでは広島のアニメーション作家や企業等の情報,広島の観光・文化情報を提供しており,それらの情報が新たな集客交流につながることをめざしている。
 第二はコンテンツを活用した新たな取引機会の創出である。具体的に,アニメーション作家の登竜門としてのイメージが定着したフェスティバルの開催実績を活かし,アニメーション学科を持つ大学や専門学校といった教育機関を対象にした作品等を取引する「広島フィルムマーケット」を開催しようというものである。「広島フィルムマーケット」はすでに第11回フェスティバル(2006年8月24〜28日)に併せて開催し,全国から26校の大学・専門学校のブース出展を得るとともに,5日間で約5,400人を集客することができた。しかし,入学生確保に向けた学校PRを希望する大学・専門学校等が多かったことやテレビ局や映画会社,その他企業等へのPRが不十分だったことから,作品等の取引はほとんど進まず,ボランティア団体をからめた運営体制の再検討とともに,今後の課題として残った。
 第三は拠点となる施設を試験的に運営する事業である。この事業はアニメーションに関わる展示,上映,交流,人材育成,制作プロダクション,オフィス等の機能を備えた拠点施設「広島アニメーションセンター(仮称)(以下,HAC)」の実現に向け,社会実験の手法を用いて事業検証を行おうというものである。市民意識調査や広島近郊のアニメーション関連学科を持つ大学・専門学校等の意向把握,全国レベルのアニメーション専門家のインタビュー調査を通じて「広島アニメーションセンター(仮称)」へのニーズや期待を明らかにするとともに,それを実証する形で2006年10月と11月の2か月間,広島市内中心部に立地するビルの1室を会場として,その設置実験を行った。
 これらの事業は全国のモデルとなることをめざしており,その実施を通じて次の3つの仮説を検証しようとしている。第一は「人材育成」を柱とするコンテンツ産業育成と集客交流サービスが成立するという仮説である。アニメーション産業やアニメーション・コンテンツを活用した集客交流サービスは,国内では東京への集積が顕著で,近年はソウルや杭州(中国)なども国家レベルの支援を受けて急速に活発化してきた。これらの都市と比較すると,広島は人口規模や資本,企業立地の点で劣っており,類似の戦略ではアニメーションに関わる産業育成やそれらを活用した集客交流を促進するには限界がある。そのため,人口規模や資本,企業立地の面では大都市に劣る地方都市であっても,広島固有の資産であるフェスティバルの開催実績を強みとして,「人材育成」を柱としたコンテンツ産業育成とそれを踏まえた集客交流のビジネスモデルの可能性と課題について検証しようとしている。
 第二は通年化・常設化によって商品力・集客力が強化されるという仮説である。開催期間が短く,開催場所も限定されるフェスティバルやビエンナーレに対して,実施期間を通年化するとともに,開催場所を常設化させたりすることにより,商品力や集客力がどのように向上し,来訪者の来訪・滞在価値がどのように向上するのかについて検証しようとしている。
 第三は,既存事業者の参画・協働と相互作用によって,実効性・持続性のある商品・サービスが創発的に生み出されるという仮説である。創発プロジェクトは2005年度から各団体の個々の力を引き出す形で展開してきており,2006年度はさらなる相互交流を通じて各事業のブラッシュアップと相互浸透を図り,事業全体を組み立てていくこととしている。すなわち,トップダウン方式でなくボトムアップ方式を採用していることに特徴があり,従来のトップダウン方式に対して,参加団体の主体性と能力を活かした事業展開を図り,時には予想を超えた成果を生み出す創発的な事業手法のモデルを構築しようと試みている。