アニメーション・今年のまとめ7

昨日の続きです。このシリーズも今日と明日の2回です。

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 HACの社会実験は,その開催に当たり,多数の関係機関の協力を得た。例えば,展示内容についてはフェスティバルの運営事務局である広島市文化財団やアニメーション展示等の実績を持つひろしま文化振興財団の協力を得た。また,ミニシアターの上映作品はフェスティバルの入賞作品集DVDを販売するソフト制作会社,クレイアニメーション制作体験は制作ソフトを販売するソフト開発会社,情報コーナーはユニークなオフィス家具や文具を販売する文具販売会社の協力を得た。さらに,HACへの来場者には広島市中心部の飲食店で割引・優待が受けられるクーポン券を配布したが,その実施に当たっては,飲食店テナントを運営する5社とそこに入居する37店の協力を得た。この他にもメディア各社,印刷会社,グラフィックデザイナー,大学・専門学校,学生インターンなどにも様々な場面で参加や協力を得た。また,開催に向けた調整を図るなかで,東京をはじめとする全国のアニメーションなどの専門家と対人関係を構築したり,強化したりすることができた。例えば,わが国を代表するアニメーション作家やプロデューサー,業界団体のトップと知り合う機会があり,HAC構想の応援団として協力してもらうことが確認された。
 「ひろしま創発サミット2006」では,札幌や東京,富山,高知,鹿児島などでSOHOやクリエイターの集積地づくりをめざす人々の参加を得て,各地での集積地の実現と相互のネットワークについて合意が形成された。また,実験期間中はHAC会場を活用した学生インターン同士の情報交換,協力企業によるセミナーの自主開催,主催団体や協力団体,行政機関,全国から来場した専門家等の参加を得たパーティーの開催など,HACに関わる人や来場した人が相互に交流できる機会が積極的に提供された。
 この他,「ポール・イマージュ・広島」のマスコットキャラクターを活用したオリジナル商品を菓子製造会社や印刷会社と協力して開発し,「広島アニメーションセンター」で試験販売するなど,コンテンツを活用したビジネス展開に向けた開発およびマーケティング活動も実施した。
 すなわち,HACの社会実験は,来場者数の把握や来場者アンケートを通じたデータ収集を通じて,実現可能性を分析だけでなく,広島内外の多様な人々のネットワークを形成し,HAC構想の実現に向けた合意形成と推進体制の確立,ビジネス化を図ることを目指したのであり,特に後者の観点からみれば,実験は成功したとみることができよう。
 しかし,別の面からみれば,社会実験は今後の本格運営に向けていくつかの課題を浮き彫りにした。具体的に次の2点を指摘できる。第一は集客が十分でなかったことである。その原因として,広告宣伝の不足,会場へのアクセスのわかりにくさ,展示や上映のコンテンツの魅力不足などがあげられよう。このうち,コンテンツの魅力不足は,大衆的で商業的な「アニメ」でなく,広島の独自性を追求する過程で,芸術的で専門家志向の「アニメーション」を主要コンテンツとしたことにも起因していると考えられる。これらのことから,広告宣伝の充実,集客につながりやすい立地場所の選定,コンテンツの魅力化と多様化が今後の課題として指摘できる。第二は芸術・文化と経済のコンフリクトである。すなわち,芸術・文化の振興を最優先とし,経済界がそれをいかに支えるかという見方と,芸術・文化的なコンテンツを独自の経営資源の捉え,それを活用したビジネスを展開するという見方があり,両者の考え方を調整および融合することが困難であった。「ポール・イマージュ・広島」がめざすのは後者であり,フェスティバルに代表される前者の考え方を認めながら,広島の都心を舞台としてコンテンツビジネスを創出・発信していくことを使命として再認識し,共通意識とすることが必要である。